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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)5991号 判決 1983年9月22日

原告

有限会社グッパー

右代表者

矢野三千男

被告

日本弁護士連合会

右代表者会長

山本忠義

右訴訟代理人

後藤明史

五百蔵洋一

被告

右代表者法務大臣

秦野章

右指定代理人

平賀俊明

岩倉毅

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告は、原告の弁護士法六一条に基づく異議申出に対し、被告日本弁護士連合会がした判断及びその審理手続が、原告に対する不法行為を構成する旨主張しているところ、不法行為は、私人の法律上保護されるべき利益を違法に侵害する行為であるから、原告主張のような不法行為が成立するというためには、まず、原告が、異議申出人として法律上保護されるべき利益を有していることが前提となる。

そこで、この点について考えるに、異議の申出及びその前提となる懲戒請求に関する弁護士法の規定をみると、懲戒の請求があつたときは、弁護士会は、綱紀委員会にその調査をさせることを義務づけられており(同法五八条二項)、さらに、弁護士会が請求にかかる弁護士を懲戒しないとき又は相当の期間内に懲戒の手続を終えないときは、さらに、被告日本弁護士連合会に異議を申し出ることができ(同法六一条一項)、被告日本弁護士連合会は、その申出に理由があると認められるときは、当該弁護士会にその旨を通知し又は自らその弁護士を懲戒し、理由がないと認められるときは、これを棄却するものとされ(同条二項)、これは異議申出人に通知される(同条三項)。一方、懲戒の請求は何人もこれをなすことができるものであり(同法五八条一項、従つて、異議の申出も同様である。)、懲戒の手続に、懲戒の請求人が関与することのできる権利を認めた規定は存しないし、懲戒請求人が裁判所に出訴する途も開かれていない。右のような弁護士法の規定及び弁護士の懲戒が弁護士会固有の権限とされていることを考えると、弁護士法は、懲戒の請求及び異議の申出について、懲戒請求人(異議申出人)に訴訟当事者のような地位を認め、懲戒手続を進行させる趣旨のものとしてこれを設けたのではなく、専ら弁護士会の懲戒権の適切な行使をはかるという公益的な目的のために、その申立権を設けたものということができる。そうすると、仮に懲戒請求を受けた弁護士会又は異議申出を受けた被告日本弁護士連合会が弁護士法によつて与えられた弁護士懲戒権の適切な行使を怠るようなことがあれば、これによつて弁護士の綱紀、信用、品位等の保持は困難となり、弁護士自治に対する国民の信頼は失墜し、ひいては司法全体に対する国民の信頼にも累を及ぼすべきことは見易い道理であるが、しかし、弁護士法五八条の懲戒請求権及び同法六一条の異議申立権が前述のような公益的見地から特に認められたものであつて、懲戒請求人(異議申出人)の私的な利益保護のために認められたものではないことからすれば、懲戒請求人(異議申出人)が、右のような場合に、弁護士会又は被告日本弁護士連合会による弁護士懲戒権の行使に関して、法律上保護されるべき利益を有するものということはできない。

二よつて、原告の本件請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(白石悦穂 窪田正彦 山本恵三)

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